自作キーボードを始めたいときに最初に読む記事

自作キーボードはキーボードの設計・組み立て・カスタマイズを楽しむ行為全般を指す言葉です。この記事ではこれから自作キーボードを始めてみようという方に向けて、まず最初に知っておきたい知識について解説します。

自作キーボードはメカニカルキーボード

自作キーボードの世界で取り扱うのはそのほとんどが「メカニカルキーボード」です。
パソコン用キーボードには色々な分類方法がありますが、その1つにスイッチの構造による分類があります。主にメンブレン / パンタグラフ / メカニカル / 静電容量無接点 などがあります。
メカニカルキーボードは、メカニカルスイッチを使うキーボードで、キーボード本体、スイッチ、キーキャップがそれぞれ別々の部品として交換可能なことから自作キーボードの分野で広く普及しています。

ちなみに...
この「一つの機械を構成する部品がバラバラに存在し交換可能」なことを「モジュール化」と呼びます。自作キーボードが発展してきた背景として、メカニカルキーボードという装置の各部品がモジュール化されており、それぞれについてさまざまな商品やサービスが開発されてきたというのがあります。

キーボードを構成するパーツ

メカニカルキーボードは大きく3つのパーツで構成されています。キーボード本体 / キースイッチ / キーキャップです。

キーボード本体とは、この場合「キーボードの基板」を指している場合が多いですが、商品によってその内容は異なります。基板のみのもの、スイッチプレートがついているもの、アクリルケースやアルミケース、フォームが含まれているものなど、いろいろなパターンがありますが、共通しているのは「スイッチを取り付ける基板を含んでいる」ということです。基板はスイッチからの入力を検知し、パソコンに対してどのキーが入力されたかの信号を送信する、キーボードの頭脳にあたる部分です。

キースイッチは基板にキーの入力を伝えるパーツです。キーを押し込んだときに実際に沈んでいるのがこのキースイッチで、中にバネが入っています。様々な種類があり、それぞれ押したときの感覚や音に違いがあります。多くの個性的なスイッチから自分好みのものを選んでいくのは、自作キーボードの醍醐味の一つです。

キーキャップは、スイッチの上に取り付けるパーツです。直接触れる部分であり、タイピングの感触や見た目に大きな影響を与えます。キーキャップも様々な材質や形状、デザインがあり、カスタマイズ性が高いです。

間違えてはいけない「フルプロファイル」と「ロープロファイル」

メカニカルキーボードはほとんどのパーツの規格が共通化されているため、本体・スイッチ・キーキャップそれぞれ好きなものを組み合わせて楽しむことができますが、1つだけ注意しておくことがあります。それが「フルプロファイル」と「ロープロファイル」の違いです。

フルプロファイルキーボードまたは標準プロファイルキーボードとは、メカニカルキーボードの一般的なスイッチサイズのキーボードを指します。自作キーボードの文脈で扱われるキーボードやスイッチの7〜8割はこのフルプロファイルのキーボードです。

ロープロファイルキーボードはスイッチやキーキャップがフルプロファイルの半分ほどの高さのキーボードです。高さが低い分、キーの沈み込む深さは浅くなり、キーボード全体は薄くコンパクトになるのが特徴です。

フルプロファイルや標準プロファイルという言葉が使われることはあまりなく、フルプロファイルのことを「通常のメカニカルキーボード」や単に「メカニカルキーボード」と呼び、それに対して薄いものをロープロファイルキーボードと呼んでいることが多いです。

問題はこのフルプロファイルとロープロファイルは本体・スイッチ・キーキャップの互換性がないということです。例えばフルプロファイルのキーボードにロープロファイルのスイッチを取り付けることはできません。ロープロファイルのスイッチにフルプロファイルのキャップを取り付けることもできません。これから取り組むキーボードやスイッチ、キーキャップがフルプロファイルのものなのか、ロープロファイルのものなのかは必ず確認しましょう。

とっても便利な「ホットスワップ」

自作キーボードを始めようというかたにもう一つ覚えてもらいたい言葉がホットスワップです。ホットスワップとは簡単に言えば「スイッチを交換できる」ということです。

ホットスワップではないパターンを考えてみるとわかりやすいと思います。通常、スイッチは基板に対してはんだで固定されています。この場合、スイッチの交換は困難で、はんだ付けしたスイッチ以外を使うことはできません。

ホットスワップとは、これを解決する仕様です。言葉としては「ホットスワップ対応の基板」という使い方が多いと思います。つまりこれは基板にスイッチを差し込むだけで使うことができ、そしていつでもスイッチを引き抜いて別のスイッチに差し替えることが可能であることを意味します。

はんだ付けをする必要がないので組み立てが簡単になるうえ、いつでも好きなスイッチに差し替えることができるので、自作キーボードを楽しむうえでは非常に嬉しい機能です。

基板やキットなどのキーボード本体商品にはホットスワップの有無が記載されています。余談ですが自作キーボードのキットでホットスワップに対応していないということは、組み立てに際してはんだ付けが必要であることを意味します。はんだ付けが必要なキーボードに「ソケット」というパーツをつけてホットスワップ化するという方法もありますが、それはまた別の記事で解説します。

自作キーボードの世界では、すぐに使える状態で販売されている通常のキーボード製品のことを「完成キーボード」や「組み立て済みキーボード」と呼んで区別しています。家電量販店やネット通販などで購入できる完成キーボードは、ホットスワップ対応のものとそうでないものが混在しています。まずはホットスワップ対応の完成キーボードを購入してカスタマイズを楽しんでみるのもオススメです

自作キーボードの楽しみかたと予算

とりあえずメカニカルキーボードを買ってみる 予算: 10,000円 〜 50,000円

自作キーボードには含まれませんが、メカニカルキーボードに触れたことがない人はまずメカニカルの大きさや打鍵感、音などを体験してみることから始めるのも良いと思います。1つキーボードがあれば、キーキャップの交換などのライトな楽しみ方もし易いです。予算に多少余裕がある場合はホットスワップ対応のものを購入しておくと、あとからスイッチの交換を楽しむこともできます。

一部のキーキャップを交換する 予算: 55円〜5,000円

すでに何らかのメカニカルキーボードを持っていることが前提になってしまいますが、今使っているキーボードのキーキャップの一部を交換してみることが最も手軽に始められる自作キーボードの最初の1歩です。バラ売りの単色キーキャップから、個性的なデザインのキーまで色々な楽しみ方が考えられます。遊舎工房の店舗のレンタルボックスでは、常に複数の個人作家さんが作った1点物のキーキャップが販売されています。まずはキーボード左上のEscキーだけ別のキーキャップに交換しておしゃれを楽しんでみるのはいかがでしょうか。

全部のキーキャップを交換する 予算: 5,000〜30,000円

キーボード1台分すべてのキーを備えているキーキャップ商品をキーキャップセットといいます。キーボードの見た目を大きく変えることができるため普段使っているキーボードの印象ががらりと変わります。個性的なコンセプトの商品も多く、デスク上のキーボードの存在感を高めてくれます。商品によってキー数に違いがあり、より多くの配列・キーに対応するためにより多くのキーキャップを備えているセット商品は価格が高くなる傾向にあります。

キースイッチを交換する 予算: 100〜 10,000円

ホットスワップ対応のキーボードを持っている場合は、キースイッチを交換してみるのはどうでしょうか。スイッチ交換は自作キーボードの醍醐味の1つです。自分好みの重み、音、打鍵感、見た目などいろいろな要素で選んでみるのが楽しいです。遊舎工房では常時100種類以上のスイッチを取り揃えており、1個から購入することができます。スイッチの種類や選び方についてはこちら(準備中)の記事も参考にしてみてください。

キーボードキットを組み立てる 予算: 30,000 〜 100,000円

基板と組み立てパーツなどをセットにしている商品をキーボードキットといいます。このキットと併せて、自分で選んだキースイッチとキーキャップを組み合わせて自分だけのキーボードを作ることができます。

遊舎工房で扱っているキーボードキットには主に3種類あります。はんだ付けが不要な組み立てキット、はんだ付けが必要な組み立てキット、そして高級志向のベアボーンキットです。ベアボーン以外の2つについては比較的見た目やケースがシンプルなものが多く、一方で配列や形状などで個性的なものが多いのが特徴です。分割キーボードが多いのもこのカテゴリーの特徴です。

ベアボーン(barebone) とは「最低限のもの」や「骨組みだけ」を意味する言葉です。自作キーボードの文脈では、基板とその他のパーツをセットにしている組み立てキットのなかでも、樹脂や金属製のケースが付属している高級志向のものをベアボーンキットと呼ぶことが多いです。イメージとしては市販の完成キーボードと同じかそれ以上の品質・グレードのキーボードがパーツをバラバラにした状態で販売されいて、かつスイッチとキャップが付属いないもの、という感じです。たいていはホットスワップに対応しているので、別で購入したスイッチとキーキャップを組み立てることで完成します。

オリジナルのキーボードを設計する 予算:たくさん

このレベルに達するとスイッチやキャップを買うのはおまけのようなものです。自分で基板を設計し、プリント基板を発注し、アクリルケースも設計し、アクリルカットサービスでアクリルを発注し、ネジや細かなパーツを検討し、場合によってははんだ付けもしてファームウェアを書き込んでようやく使えるものが完成します。